2013年3月25日月曜日

お喋り

 日本では、ゴルフ場は今や混雑の代名詞にもなろうとしている。しかしオーストラリアでは”のんびり”という言葉に置きかえることができる。

 前の組がグリーンから去るのを待ちながら、フェアウェイでお喋りが始まる。間もなく、先行組は全員ホール・アウト。グリーン上には人影がなくなった。

「前があいたぞ。もう打ってもいいんじゃない?」

 話の区切りをみつけて、私はパートナーに声をかけた。彼はショート・アイアンを手にしてはいるものの、いっこうにアドレスに移ろうとする気配がない。

「何を言っているんだ。おれたちの話、まだすんでいないじゃないか・・・。ところでさあ、あのあとが大変だったんだよ、ジョーの奴がよう・・・。」

 とにかく、えんえんと話がつづくのだ。長々とお喋りがつづくのは、打ち込んだボールをさがしてブッシュをかきわけているときでも同じである。ボールをさがしながらペチャクチャ。正しくはお喋りしながらのボールさがしなのだ。うしろから打ってくる人はおろか、「早くしろ。」などと文句を言う人もいない。

 およそ、ゴルフに関係ない話に花を咲かせ、マイ・ペースでカートをひき、「笑いかわせみが鳴き出した。」と言ってはプレーを中断して、その鳴き声に耳を傾け、「へびがいる。」と言えば、その声の主のところへ駆け寄って、みんなで遠巻きにのぞき込む。

 あるオーストラリア人がこんなことを言った。

「月曜日は、ロストボールがたくさん見つかるんだ。」
「どうして?」
「日曜にね、ここのゴルフ場で日本人が、よくコンペをやるからさ。多分、彼等はボールより速い速度で歩いているんじゃないのかね。」
「・・・・・・」

及川甲子男 (1975) 「メルボルン・ノート」 日本放送出版協会  pp. 80-81.

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