「オーストラリアでは、男同士の間に、非常に古い伝統である『メイト・シップ』が存在するが、これは1890年代の作家、特にヘンリー・ローソンによって美化されたものだ。
現在では、婦人がある程度の地位を獲得したため、メイト・シップは、すたれてしまったようにみえるが、軍隊の中では、以前よりずっと、強くなっている。また一部の労働者の間では、いっそう重要な存在になっている(中略)それが、ホモ・セクシュアリティに結びつくものかどうかはともかくとして、男同士の友情というものは、男女間の友情よりも、はるかに大切なのである。オーストラリア社会では、婦人は(友人とか、仲間としては)他の国の婦人たちよりも、重要視されていない。」
「メイト・シップ」、オーストラリアの男たちが、よく口にする言葉である。"相棒精神"とか"仲間意識"とでも言ったらいいだろう。
メイト・シップは、開拓時代、きびしい自然環境に立ち向かって生活する男たちの間に生まれた。未開の地にやってきた人々は、特別の仲間意識を持ち、強い連帯感をもたげなければ、次々と襲うさまざまな困難を克服することはできなかったであろう。物理的にも精神的にも、互いを助け合い、励まし合うことがなかったら、孤独と闘いながら、広大なブッシュや砂漠地帯を、緑の牧場に作りかえることは、不可能だったに違いない。
『ひとヤマあてようと、二人連れでやってきた鉱山師の一人が、急死してしまった。生き残った相棒は、仲間を埋葬すると、空を仰いで、「神様というものが、本当におられるなら、この男のことをよろしくお頼み申します。なにしろ、オレの相棒だったもんで・・・」と祈った。』という話があるが、これなど、メイト・シップを理解する上で役立つ話だろう。
及川甲子男 (1975) 「メルボルン・ノート」 日本放送出版協会 pp. 143-145.
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